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白國
白國

2015年12月26日

妖々稲荷と迷いの子6

社の中へ風が入り込み、寒気を覚える。春風が吹けば昼夜関係なく人の心に安らぎを与える。だが、今流れた風は安らかという言葉を嘲笑うような不快感を与えるものだった。
 「きたか、呪われし愚者どもが……」
 大明が社の戸を睨み、素早くナキサに振り替える。ナキサは慣れない環境でのn疲れからか小さな寝息を立てている。
 それを見た大明は心から安堵すると、戸から外へ移動し、天に向かって一吠えあげる。間もなくして大明の周囲に大明を慕う狐たちが集まった。
 「同士よ、これは聖戦である。我らの安息を奪う者たちを払う闘いである。」
 大明が紡ぐ一言一言が今ある立場を正当化させるような、危険であり酔いしれる言葉に狐たちの内側から力が溢れる。
 「きっと、いや今いる仲間たちの幾つかは失うだろう。今隣にいる友がこの後立っているか分からない。だが恐れるな、人ならぬ者には安息を与えるため……行くのだ。」
 大明が演説を終えると、狐達は個々に散らばり、姿を消す。再び静けさを取り戻した獅子ヶ鼻に一人残された大明は天を仰ぐ。
 「合縁奇縁……人と神、そして人ならざるもの。彼女はきっと……目覚めるだろう。」
 刹那、空が弾け、爆音が鳴り響く。始まったのだ。死してなお神を恨む人と神そのものの大戦が。
  


2015年12月14日

妖々稲荷と迷いの子

夕刻が過ぎ、闇が深くなる。大明は狐達から食事を社に運ばせて、ナキサと分け合う。
 「狐は変化に優れている。人に化けて山を降りれば食料調達など造作もない。」
 大明は得意げに鼻を伸ばすが、ナキサは大明に目も呉れず並んだ料理を凝視している。まさか山に居座る神様が人間の食文化に干渉し、それを口にしているなど考えられないことだ。
 「安心せい、何も盗んではおらん。ちょいと拝借をしているだけじゃ。」
 大明の言葉にナキサ頭の中に謎が生まれるが流すのが優しさなのだろうと判断し、料理を口に入れる。体の中に生まれる幸福感と共にお腹が満たされていく。
 ナキサは思う。一体自分が何故ここ獅子ヶ鼻の山に迷い込んだのか、何故両親の事を覚えていないのか、何故自身のルーツ全てが黒い布で被せられているのか。
 目の前にいる狐を見る。この神様らしき小動物は汝の体が知っていると答えた。ならこの神様は自分の正体を熟知しており、何らかの理由で隠し通しているに違いない。ただ今ここで問い質しても話をはぐらかしてしまいそうな気がする。いつの日かその理由を聞いてみたいと心の中で密かに誓った。
 「ナキサよ、お主の瞳になにか宿ったようじゃのう……」
 一瞬、心を鷲掴みにされたような圧迫感を感じた。
 「……ごめんなさい。」
 バツが悪くなったナキサは思わず誤ってしまった。大明は落ち込んでしまったナキサを見てクスリと笑い、天井を仰ぐ。
 「心で何かを思うのは人も神も同じこと。そしてまた同じくして願っておる。存在こそは違うもの、人間と神様との異なるところなどほんのひと握りだけじゃ。」
 大明の言葉一つ一つが、ナキサの固まった心を震わせる。どこを眺めても黒色の風景に光が灯る暖かさを感じた。まるで優しい母親が子供を諭すような心地よさがある。
 「忘れてしまった、置いてきてしまった物を取り戻すのは不可能に近い。だからといって過去に手をかざすことをすぐ諦める様な生物は愚者の行いそのもの。汝がその意思を持った今、汝はどの生きる者より、儚くて輝いておる。ゆめ忘れるな。」
 まさか狐の神様に諭されるなど、思いもしなかった。半日だけの付き合いだけでここまで自分の領域に入ってくる神様がいるなんて考えたこともなかった。
 大明が微笑む、釣られてナキサも微笑む。この面白くも可笑し関係を築いた二名は親子そのものに見えた。
  


2015年12月04日

妖々稲荷と迷いの子4

 四本の足を再確認しても足の裏からは湿り気を含む木床の感触がある。昨日は快晴とまでは言わないがそれなりに晴れていた。いや、そもそも雨が降ったとしても床が湿ることは普通はない。大明は困惑する思考を抑え足を運ぶ。幾分床が脆くギシギシと軋む音が発生するが気にならない。
 「汝。」
 大明が少女に寄り添い声をかける。少女は声に応える様に沈めていた顔を上げる。歳が10にも満たない様な小さな体で
 「汝、名は何と言う?」
 言葉を発しない少女に大明は畳み掛けるように言葉を紡ぐ。少女は声が発している正体が視界にいる狐からだと理解する。少女は目の前に居座る狐に向かって言った。
 「ナキサ……」
 少女が言った三文字、それが少女を表す言葉。大明は名を聞いて何かを思ったのか、クスリと微笑する。ナキサは体を強ばらし、体を社の隅へ隅へと後ずさる。人語を話す狐に対して何か気に触れたのかと思ってしまったからだ。
 「儂は大名と呼ばれる稲荷の神。そう怯えるな、とって食おうなど考えておらぬ。」
 大明は怯えるナキサを宥め、どうしてこの山に近づいたのかと疑問を投げた。話によると桜まつりに来ていた両親とはぐれてしまい、迷っていたらこの社を見つけて休んでいたとのこと。そこに獅子ヶ鼻に住む狐に侵入者だと勘違いして、捕らえられてしまったとのこと。
 「ナキサ、其方の両親は今おるのか?」
 大明の問いにナキサは首を横に振るう。
 「ならしばらくここにとどまるが良い。食はちょっと困るかもしれないができる限り不自由のない事を約則しよう。他の狐たちには儂から話して―」
 「どうして、私に優しくしてくれるの……?」
 事を進めていく大明の話を折るようにナキサは言った。どこの馬の骨かわからない、ましては同族でも何でもない厄介者をなぜ率先して引き受けいてくれるのだろうか。
 頭の中が混乱する少女は大明に問う。大明一瞬の間を置いて微笑んだ。まるで母親が可愛い娘を見るかのように。
 「その問いの答えは、汝の体が知っておる。」
  
タグ :小説


2015年11月09日

妖々稲荷と迷いの子3

 「誰もがこの社を恐れ、近寄らなくなった。だからこそ意味がある。」
 大明が呟いた独り言は春風が舞う空気に溶けて消えていく。噂が噂を呼び、時代の流れと共に廃れていくだけの社。
 その点を大明は目に付けた。誰も足を運ばない場所を別の用途として利用することで、記憶の中から葬られることはなくなると考えたからである。
 大明は見張りを目配せし、見張りの狐を退かす。すでに機能を失った木製の扉は腐っており無数の穴が空いている。
 「……誰?」
 大明が扉に触れようとした瞬間、社の中から女の声が聞こえた。か細い声は涙ぐんでおり、大明の耳に微かに入るくらいの音だった。
 大明は少女の声には答えず「入るぞ。」のひと声をかけて静かに扉を開く。少女は室内の片隅で三角座りしながら大明に視線を向ける。
 ゆっくりと歩を進めている内に足元に違和感があった。四本の足全てに感じるものが脳に送られる。何故という過程は分からないが結果という事実は認識出来た。

 社の床が湿っているのだ。
  


2015年11月03日

人物設定


大明
近年国外でも知名度が上がっている稲荷の神様。呼び名の中に稲荷大明神があり大明はそこからとっている。
獅子ヶ鼻公園に祀られている稲荷の一神であり野狐を束ねている。
願いを一方的に押し付ける人間を嫌っており、山奥に社があるのは本人にとって嬉しい限りである。
稲荷は奈良時代から知られており豊穣の神として祀られていたが、後の時代に食の神や病気を治す神、商業を司る神と様々な種類を持つようになった。

狐達
獅子ヶ鼻に住まう狐、大明の下僕。

ナキサ
家出少女……なのだが、帰る家を持たないと言う少女。
神を見ることが出来る目、天眼を持ち、対話することも可能。
あまり喋らない大人しい女の子である。


近年、獅子ヶ鼻の山で現れた大戦時に戦死した兵士の亡霊。
獅子ヶ鼻に住む狐に危害を加える謎の存在。  


2015年11月02日

妖々稲荷と迷いの子2

 大明は目を丸くした。人間が稲荷の社に入ることでさえ驚嘆に値する。ましてや生きているとなると前代未聞の事件に匹敵する。
 「では大明様、失礼します。」
 狐は大明に一言告げた後、後方に去っていった。大明は衝撃の告白を聞いて、戸惑いを隠せない。こめかみを手で揉みながら腰を上げる
 「窮鬼はこの場におらんのに、厄介事は回ってくるものだな……」
 大明はため息を漏らしながら沈黙を続ける狐達を置いて、女子を捕らえてある場所に足を運ぶことにした。残していった杯に桜の花びらが一枚、酒の水面に浮かんでいる。

 神と人は常に寄り添っているが互いに姿を見ることは出来ない、大事な暗黙の了解が存在する。
 しかし人は生まれながらにして見えないものが見えてしまう者もいる。霊感があれば幽霊が視認出来たりするのは特別な力があってこそ出来る芸当であり、誰もが持っているわけではない。
 同じように神も特別な霊感を持つ者だけ認識出来る。神を見透かす目、人は天眼と呼んでいる。
 
 社に通じる荒道を降りて、先にある獣道を歩いていくとまた別の社が姿を見せる。
 ここは元々別の稲荷が祀られていたとして機能していた社であったが、第二次世界大戦時に原子爆弾投下により破壊された過去を持つ。戦後、修復作業が行われ晴れて社はまた建てられたのだが元々社に住まう神は人が人と争う光景に絶望し高天原に戻ってしまっていた。
 結果、存在だけで意味がない社が生まれていまい、人も神も寄り付かないいわゆる曰くつきを貼られてしまった場所である。  


2015年10月19日

妖々稲荷と迷いの子 設定資料:舞台とあらすじ

妖々稲荷と迷いの子、ご拝読ありがとうございます。
テストという形で投稿しましたが、読み辛いという指摘を頂いたので1000字前後から500字前後に変更させていただきます。たくさん読みたいと願う方には申し訳ない。

今回は小説の舞台と設定について書きたいと思います。
まず舞台は静岡県西部にある獅子ヶ鼻公園、ここの説明は前々回のブログに載せましたので省きます。

内容は獅子ヶ鼻は稲荷が祀られておりその地に居座る大明神は、近年第二次世界対戦時に亡くなった兵士の亡霊が、稲荷の僕に当たる狐達に害を与えていることに悩んでおりました。狐はその人間を『兵』と呼び、恐れています。
兵士達を動かす原動は『逆恨み』、神に守りたまえと願うも結局は戦死した人間は神を憎み、報復を与えるという概念に囚われています。
そんな環境下で一人の女の子が稲荷の地に迷い混んでしまいます。
……というのが大まかなあらすじです。

神様と人間の争いの中で神様の土地に迷い混んだ子供が何を感じ、そして稲荷もまた人間をどう感じるのか、お互いが想いの変化と共に成長する。そんなお話を書きたいです。

登場人物はまた後日綴らせてもらいます。  


Posted by 白國 at 11:08
Comments(0)小説設定

2015年10月13日

妖々稲荷と迷いの子

 人は神様を信仰し、崇める生き物である。神はいついかなる時でも人を見守り、人を導く存在なのである。
 そう考えるのはいつだって人だけで、神はどう思っているのかは分からない。そもそも神は一つの象徴であり万能の存在ではない。それでも人は神を求めて手を差し伸ばす。
 執拗に崇拝し固執するのはまさに支配だ。信じるものは救われるという言葉もあるのだから人は崇め続けられるのだろう。
 だが人は時として神を憎みする生き物である。神社で賽銭を投げるも願いが届かなかった時、「何故助けてくれないのか。」「何故見捨てたのか。」と訳のわからない何故を連呼し神を貶す。
 そんな人を神はどう見るか、その反応すら人の想像の中で収まってしまう。

 今は桜の賑わう季節、獅子ヶ鼻公園では桜まつりが開催されている。道端に並んでいる桜は空に咲き誇っており、淡い日光に照らされた花びらは空に儚くも美しく舞い散る。見る人の心を和ませる。
 屋台売店、フリーマーケット等のお店が陳列しそれぞれのお店で作られている料理、芸当品に子供たちが声を上げて親を困らせている。その様子もまた一興なのである。
 獅子ヶ鼻の山奥でもまた同じであった。山奥にある稲荷の社にはこれまた 騒ぎ好きな狐が集まっていた。片手に杯を持ち料理をつまむ者いれば。急に立ち上がりおどりはじめる者がいる。桜の花が乱れ舞っており、花びらが通り道を覆う。雪とは違う命の息吹が溢れ出る白い道は歩む者の心を躍らせる。それは人間だけではなく神も一緒だった。
 「桜を眺めながら酒を楽しむ……人間とは誠に不思議な発想を持つものだ。」
 稲荷神の主、大明(だいみょう)は杯に注がれた酒の水面を眺めている。ゆっくりと揺れる水面に映るのは大明自身の顔と桜だけだが、大明それが美しいと感じる。故に杯を空にしてしまうのは惜しいと思ってしまい、いつまでも酒を飲み干せずにいた。
 「だがいつまでも残しておいても風情が台無しになる……うぐぅ、気が引けるがここは皆に習お―」
 「大明様、大明様!!」
 大明が意を決して杯を口に傾けようとした瞬間、配下の狐が大声を上げて大明の名を叫んだ。周囲の狐達も騒ぐのを止めて大明に視線を向ける。
 少しして一匹の狐が息を荒げながら大名の前に頭を垂れる。
 「何事だ騒々しい、宴に雑音を持ち込むな、酒が不味くなろうが。」
 大明は目の前にいる狐に言葉をかける。酒を飲もうとしたのを邪魔されたせいか少々不機嫌になっている。しかし大明を指名し、叫んでいたことから、今のっぴきならない事態なのだろうと汲み取ることも出来た。
 「申し訳ございません……しかし今回ばかりは大明様の耳に入れておかなければならない事で。」
 「何事だ、申せ。」
 「放浪者を捉えました。」
 狐がその言葉を放った瞬間、周囲の狐達に緊張が走った。大明は目を細めて眉間を揉み始めた。
 「……兵か。」
 放浪者とは文字通り放浪している者であり、この獅子ヶ鼻での兵と言うのは第二次世界大戦時に戦死した亡霊のことを言う。近年、その兵が狐達に危害を加えるという事件が相次いでおり、狐にとって兵は障害であり排除すべき対象なのだ。その兵が捕まったとなれば狐達にとって対策のしようが出来るという事だ。
 「いえ、その……今回の放浪者は、生きている女子なのです。」

……続く
  


2015年10月08日

新作の告知

学生カテゴリ一位に輝いたこのブログ、学生が意気揚々と立ち上げたこのブログに足を運んでくれてありがとうございます。
さて今日は学生が構成した新作の発表になります。新作の舞台は、静岡県西部の磐田市にある「獅子ヶ鼻公園」と呼ばれる公園です。公園と言いますがあそこはほぼ山です。ハイキング、トレッキング目的の方々が訪れます。


獅子ヶ鼻

獅子ヶ鼻の崖岩、獅子の鼻に見える感じがします。


この場所は獅子の鼻と言われている崖岩、絶妙なバランスを保つ、まるで浮遊している様に見える浮石、稲荷の社、戦没碑等があります。心霊スポットとしても有名な場所でもあります。

新作はまだ設定が固まり、執筆開始なので大体書けたら載せていこうと思います。

一記事1000字くらいを予定しています。  
タグ :小説告知


Posted by 白國 at 11:04
Comments(0)小説

2015年10月02日

はじめまして


どうも、こんにちは
白國(しらくに)と申します。

このブログは、静岡に住む学生が考えた自作小説を公開すると共に何気ない日常を綴っていきます。
ちなみに作家歴は6年と半月やっておりますが、気にせず書いていきたいです。

これからよろしくお願いします。  


Posted by 白國 at 15:04
Comments(0)